僕達がよく陥りがちな、偏りをもつ9つの思考プロセス

カテゴリー think

一昨年の暮れに「影響力の武器」という本を読んで以来、
心理学、というか人の思考の法則について強い関心を持っています。
色々調べていると「Aの場合はB」みたいな形で
多くの人々に当てはまる思考の法則みたいなものが
わかってきます。なんだか人々の秘密を知ることできる
みたいな感覚が味わえて面白いんですよね。

例えば

・自分で決めたことは、ちゃんとやらなければいけない
・みんなやっているから安心
・限定品には価値がある
・この人は業界では有名な人だから


上記のような考えを誰もがもったことがあるかと
思うのですが、こういったフレームワークみたいな
思考の法則というのはマーケティング施策を考える上でも
非常に有効な方法だなと感じます。
こういった”パターン”のようなものを捉えて魅せ方を
考えるのと、そうでないのでは少なからずその結果に
差が生じるのではないでしょうか。


ここ最近読んだ本で、その分野で面白かったのは
ファスト&スローですね。Kindleストアでも人気本として
取り上げられているのでご覧になった方も多いかと思いますが
この本で説明されていた「目からウロコ」な法則を
いくつかピックアップして備忘録がてら以下に
ご紹介したいと思います。



少数の法則


law-of-large-numbers
これについてわかりやすい例えがあったので紹介します。
■ガンの出現率を地域ごとに調べたところ、出現率の
 高いのは農村部の地方で、人口密度が低いところであった。

この調査結果をみると、”人口密度が低い地区”という要因が
ガンの出現率を高める理由にも見えます。では逆に、
ガンの出現率が低い地域を調べてみましょう。

■ガンの出現率が低い場所を地域ごとに調べたところ、
 地方の農村部で、これまた人口密度が低いところであった。

面白いですよね、つまり標本サイズが小さいと、
大きい場合より極端なケースが発生しやすくなるんですよね。
※母数が少ないとその傾向には多い場合に比べて偏りがでます。
これは統計学的にはよく知られた話しなのですが、
人々は往々にしてこういった少なすぎる母数から導き出された
価値に乏しい結果から結論を下す傾向があります。
これを少数の法則と呼びます。

僕は運用していているWEBサービスでABテストなどを
行なっているのですが、この少数の法則というものに
惑わされずに、判断を下そうと意識しています。
まだサービスがスケールしないうちは、
ある程度のボリュームが必要なので難しい部分ではありますが…




アンカーの法則


anchor
最初にある数字を示されると、無意識にそれが
基準(アンカー)となってしまい、その後の
判断に影響を受けてしまう人々の思考プロセスを
アンカーの法則といいます。

これも世の中に溢れる企業のマーケティング活動の中に
巧妙に取り入れられている仕掛けなので
覚えておいたほうがいいでしょう。

例えば
ガンジーは無くなった時120歳以上でしたか?

と、質問するのと、

ガンジーは無くなった時35歳以上でしたか?

と質問するとではそれぞれ、そのあとに返ってくる質問に偏りがでます。
例えば前者では「70〜90くらいじゃないかな?」という
答えが多くなるのに対し、後者では「40〜60じゃないかな?」
という形で最初に示された数字によってその後の答えの
数字の内容も変わってくるのです。

これが恐いのが、自分では関係ないと思っていても
最初の数字(アンカー)に左右されてしまう、ということです。

これはビジネスの面でも使われ、最初に提示された
残念ながら僕達の判断は左右されます。その現象を捉えて
最初にふっかけたほうが得」といわれることもありますが、
対策としては直感的に判断するのではなく、ロジカルに
判断の根拠となる数字を計算するなりして対策する必要があるでしょう。

買収を検討している企業が売上予想を出してきたとしたら、
それは例え予想だとしても私達はその数字が持つ
アンカーという魔力から逃れることは難しいかもしれませんね。




利用可能性ヒューリスティック


airplane

自分の記憶の中から探し出しやすい、思い出しやすいものだけを
事実にしてしまい、それに基づき、判断してしまうことをこのように呼びます。

例えば飛行機事故などは大々的に報道され記憶に残りやすいので、
そのニュースをみた後は飛行機の安全性に疑問を抱くようになります。
自動車事故のほうが何倍も危険性が高いにも関わらず。
つまり滅多にでないニュースは大きな注目を浴び、
実際以上に多く起こってしまう錯覚を与えるということです。

他にもCMを良く見るおかげですぐに思い出される情報や
いつも使っている商品の情報、また身近な人達の間で話題になっている
情報の優先度を何の根拠もないのに高く見積もる傾向が、私達にはあります。

果たしてここ最近起きた2,3件の事件だけを理由に
いじめの問題が大きな社会問題だと言い切っていいのでしょうか。
他にも我々の生活に大きな影響を及ぼしている社会問題は
多くあるにも関わらず、マスメディアの操作によって
私達のヒューリスティックが操作されているのです。

日本のTVや新聞などのマスメディアほとんど寡占状態ですので、
もはや数社に世の中の動向は操作されているといっても
過言ではないですよね。利用可能性ヒューリスティックを
意識しながらブレない自分なりの考え方を持つ必要が
あると思います。




代表性ヒューリスティック


linda

突然ですが質問です、あなたはAとBどっちの
確率が高いと思いますか?

————

リンダは31歳の独身女性。非常に知的で、はっきりものを言う。
大学時代は哲学を専攻しており、学生の頃は社会主義と差別問題に関する活動に深く関わり、
核兵器反対のデモにも参加したことがある。

A:彼女は銀行員である
B:彼女は銀行員で、女性運動で活動している。

————

いかがでしょうか?この質問で多くの人に表れる思考プロセスを
代表性ヒューリスティックと呼ぶのですが、説明すると
信頼できるデータなどによる確率を無視して、
自分の主観的な考えで(その業界では典型的と思われる事項に着目して)
物事を判断することをそう呼びます。

それを踏まえて改めてリンダ問題を見ていただきたいのですが、
あなたはどっちだと思いましたか?当然、後者は前者の部分集合なので
前者の方が確率的には高いはずですが、多くの人は後者を選んでしまうとのことです。

つまり、人々はもっともらしいストーリーを勝手に
自分の頭の中でこしらえてしまうのです。
僕はどちらかというと「直感は信じるべき」という
スタンスの人間なのですが、こういった傾向を人々は
もっていることを知ると気をつけなきゃな、、と思っちゃいますね。。




認知容易性


apple
面白いことに、私達は読みやすいもの、
頭にスッとはいってきやすいもの、見た目がキレイなもの、
慣れ親しんだものなどに対しては無意識的に好意を持つといいます。
つまりわざわざ考えなくとも頭で認知しやすいものに対しては
私達は肯定的な意見を”それだけで”半ば自動的に持つことになるのです。

逆に読みにくい、もしくは難しい言葉を連ねたわかりにくい文章については
人々はそれに対してネガティブな考えをもつことになるのです。
その分野の研究者の中では「ありふれた考えをもったいぶった言葉で
表現すると知性が乏しく信ぴょう性が低いとみなされる」傾向になると
いう意見もあります。

みなさまも難しい言葉で表された小さく読みづらい文字よりも、
わかりやすく平坦な言葉で書かれた文章のほうに
好感を覚えるのではないでしょうか。

この特性を活かして誰かに何か(嘘)を信じさせたい時の
確実な方法は何度も繰り返して伝えることですね。
独裁者も広告主(メディア)もそのことはずっと昔から知っています。
それにわかりやすさを加えると強力なメッセージになりますし、
繰り返し流れるCMが今でもそこそこのパワーをもっている所以でもあります




ハロー効果


halo_effect

これは有名なものなので知っている方も多いのではないでしょうか?
簡単にいうと”見たものがすべて”とも言えるもので、
一部の特徴しか知らないにも関わらず、その対象物の全体を
知っている気になり評価してしまう現象のことをいいます。

その対象物は往々にして人である場合が多いですよね、例えば
Aさんが英語が出来るという特徴だけで、優れたビジネスパーソンだと
評価してしまったり、(その2つには全く相関関係はないにも関わらず)
一流大学を卒業しているというだけで、人格が評価されたりと、
私達は最初の情報だけで全体の判断をしてしまいがちです。

一度パーティで話しただけで、その人のことは
よく知らないにも関わらず、好感をもったという理由だけで
「あの人なら信頼できるよ!」とどうして言えるでしょう。
みなさまもそういった経験があるのではないでしょうか。

そもそもそれは効率よく思考判断するために人間に備えられた
直感アルゴリズムだと思うのですが、それが必ず
正解とは限りませんので、注意したいところですね。




平均への回帰


average
これも面白かったですね。
例えばあなたがスポーツ選手だとして、
前期はとても調子がよかったとしましょう。
では今季はどうなるか?
残念ながら、恐らくとても高い確率で前期の成績を下回ります。
逆に前期とても調子が悪かったとしたら、
嬉しいことに今季の成績は大きく向上するでしょう。

これはテストの成績にもあてはまることもできますし、
身長の高い両親からは、往々にしてその二人の身長より
高い子が生まれないということもこれで説明できます。
MVPに輝いた選手が次期ではあまり活躍できないのもこの
平均への回帰の法則が起因しているからです。

つまり平均への回帰とは、ある極端な結果や成績が出た場合、
その次に起こりえる結果はその一回目全体の平均に近くなる、
という考え方です。
中間試験で特別に高得点だった生徒たちは、期末試験では
その中間試験全体の平均に近づくということですね。

叱るより、褒めるほうが効果的という言葉もありますが、
例えば子供のテストの結果などで次の成果をみる際、
褒めた、叱ったに関わらずまずはこの平均への回帰を
疑ってみたほうがいいかもですね。

ほとんどの確率で成績が悪かった後のテストの結果は、
よりよくなっていることでしょう。

ファスト&スローで興味深かったのが、この平均への回帰の考え方を
ベースにあの名著として知られる「ビジョナリー・カンパニー」を
たまたま運がよかった企業同士の比較にほかならない」と評しています。
例えCEOが素晴らしい人物でも、それをもってしてその企業が
好業績を上げられるかどうかは予測しえないと言います。
※ビジョナリー・カンパニーで調査対象となった卓越した企業と
イマイチの企業の格差は、調査期間後には縮小しているとのことです。




講釈の誤り


subprime_mortgages
これは「ブラック・スワン」という本でも注目された私達の行動心理ですね、
どういうことかというと、私たちは周りにおこる様々な出来事に対して
自分が納得できる因果関係(ストーリー)を”勝手に”こしらえてしまうといいます。

例えばFacebookが現在のような成功を収めたのはマーク・ザッカーバーグの
リーダーシップや先見性のおかげでしょうか?映画や書籍の影響で
彼の存在こそがFacebook成功の要因だと考える方も多いかと思いますが
それは私達が頭の中でこしらえただけにすぎない
都合のいい(気持ちのいい)要因なだけではないでしょうか。

もしくは過去の対戦成績が拮抗しているA/B両チームがサッカーの
試合をしたとして、今回はAがBに圧勝したとしたら、
「AはBよりもずっと強いチームだ」と考えてしまわないと
言えるでしょうか。そう思ってしまうのも仕方ないことですが、
過去の両チームへの成績を参考にするとか、自分の主観による判断が
周りへの影響を及ぼすことになることも覚えておいた方がいいかもしれません。

ポイントとしては人は
長いストーリーよりも短いストーリーを、
複雑なよりも、シンプルなストーリーを、
抽象的よりも、具体的なストーリーを、
たまたま起こった事象を、

頭の中で紐付けて認識しやすくできている
構造になっている言います。

3.11やサブプライムローン問題など世の中の
大きな出来事が起こった要因に対して自分なりの
講釈を付け加えようとしている人達も多かったですよね。
また、ビジネス書やサクセスストーリーの逸話が
心地よく感じるのはこの「講釈の誤り」の心理が
少なからず影響しているかもしれませんね。




人間の予測はあてにならない


checklist
世の中には多くの”専門家”が存在しますが、残念ながら
その専門家というのは恐らくほぼ100%””です。
いくら専門家であっても、それがその判断を下す人が
人である限り、間違いは免れないというのがここで言いたいことで、
その間違いの頻度は一般人よりも多少まし、というくらいでしょう。
なのでファスト&スローでは、がん患者の生存年数、学術発表の評価、
心理カウセリング、新生児の突然死の可能性、犯罪者の再犯率、
ワインの将来価格、株価予想など、極めて予測可能性が難しい
分野に関しては人の判断に頼らず”アルゴリズム”に頼るべきだと
述べています。

例えば降雨量と気温のデータだけでワインの価格を予測する
アッシェンフィルターという人が考えた方程式があるのですが、
これは従来のワイン専門家の予測に比べて極めて予測精度が
高いものであるといいます。
※その方程式の予想価格と実際の価格の相関係数は0.9を上回る

これはワイン業界から物凄い反発を買うことになり
映画を観ないで批評するようなもの」と酷評されたそうですが、
事実、こういった専門家たちの主観が入る分析よりも
数字のみに頼った分析のほうが往々にして効果的だとのことです。
WEBサービスでも当たり前の考え方になっている
データドリブン」というスタンスもこの考え方を根拠にすれば
納得頂けることでしょう。



以上、長くなってしまいましたが「これは!」と思う
人の思考プロセスをまとめてみました。
これら私達のバイアス(偏り)は人々の進化の過程で
生まれたものなのでよほど客観的に自己を捉えない限り、
このバイアス群から逃れるのは難しいように思います。

でもしかし、この思考プロセスをある程度
意識しておけば議論などでありがちな
「バイアスのかかったアイデア」を正しい方向に
修正していくことが可能でしょう。今回は
ファスト&スローについてまとめましたが、
「影響力の武器」に関するまとめはここ
紹介しておりますので、よかったらこちらもご覧ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。